市場の競争が激しくなる中、差別化の手段として「CX(カスタマーエクスペリエンス)」が注目を集めています。 当記事は、マーケティング歴20年超、さまざまな企業の支援をしてきた筆者が、CX向上のための5ステップと担当者が意識すべき8つのポイント、さらに5つの評価指標に関して解説します。CX(カスタマーエクスペリエンス)とは? CX(Customer Experience)とは、「顧客体験価値」や「顧客経験価値」と訳され、顧客が体験する価値を指します。 この概念は単なる商品やサービスの質に留まらず、顧客が接触するすべてのプロセスを通じた体験です。つまり、商品やサービスの認知にはじまり、購入後のブランドとの継続的な関係全体を含みます。 このCX(顧客体験価値)は、ビジネスにおいて競争優位性を築く重要な要素とされています。CXを構成する要素 CXを構成する要素は「合理的な価値」と「感情的な価値」に分けられます。 それぞれの意味について解説します。合理的な価値 合理的な価値とは、商品やサービスの「機能性」「価格」に基づく要素です。商品やサービスそのものの具体的な価値といえます。 合理的な価値の要素としては、次のようなものがあります。要素説明価値と品質のバランス価格よりも優れた価値を提供する。問題解決能力顧客の課題や悩みを効率的に解決する。感情的価値 感情的価値とは、顧客体験から得られる、個人の感情を指します。 『経験価値マネジメント』の著者であるバーンド・H・シュミットは、この感情的価値を5つに分類しました。要素説明具体例感覚的価値(Sense)五感(視覚・聴覚・触覚・味覚・嗅覚)から得られる経験・美味しい食事 ・良い音楽情緒的価値(Feel)興奮や安心、喜びや愛着など個人の内面の経験・コンテンツ(映画など) ・イベント創造的・知的価値(Think)知的欲求を刺激される経験・芸術 ・博物館 ・書籍 ・学習行動・ライフスタイルに関わる価値(Act)顧客の生活の質や行動に影響する経験・スポーツジム ・ボランティア活動社会的経験価値(Relate) 特定のコミュニティに所属することで得られる価値・SNS ・会員制の組織CXとUXの違い UX(ユーザーエクスペリエンス)はCXに含まれる要素のひとつです。 UXは、製品やサービスを直接使用したときに得られる体験を指します。例えば、アプリの操作性や商品やサービスを実際に使って得られた経験です。 一方で、CXは、購入前の宣伝から、実際に使ったときの体験、購入後のブランドとの接触を含む広範囲な概念です。 ▼UXはCXに内包されるCXとCSの違い CS(カスタマーサティフィファクション)は、「顧客満足度」と訳され、CXを評価するための指標のひとつです。 CSは、実際に製品やサービスを直接使用して得られる満足度を表します。 一方で、CXは、購入前の宣伝から、実際の使用、購入後のブランドとの接触や体験を含む広範囲な概念です。CXの重要性 CXは、現代のビジネスでは重要な戦略要素です。ここでは以下の観点から、CXの重要性を解説します。市場競争の激化顧客ニーズの多様化SNSによる拡散(口コミ)効果長期的なファンの育成市場競争の激化 現代のビジネス環境では、商品やサービスの「合理的な価値(機能や性能)」が容易に模倣されるため、競合他社との差別化が非常に難しくなっています。この状況下で、企業は価格競争に巻き込まれやすくなり、結果として利益率の低下というリスクに直面しています。こうした差別化が困難な環境で、CXの持つ「感情的な価値」が、企業の競争力を高めるうえで重要な役割を果たしています。顧客は、機能や性能が同等であれば、ポジティブな感情を抱けるブランドや商品を選ぶ傾向が強く、CXの質が選択基準の一つとなるからです。電通デジタルが発表した「CMO調査レポート2024:CX版」では、調査対象のCMO(チーフ・マーケティング・オフィサー)のうち、半数以上(51%)がデジタルCX向上、およびイノベーションに焦点を当てた取り組みへの投資をより積極的に進めている63%がターゲット顧客層の拡大を目的とした新たなエクスペリエンスの提供を開始しており、CXを強化する傾向が一層強まっているという結果も出ており、市場競争を勝ち抜くためにCXを重視する流れは今後より盛んになるでしょう。顧客ニーズの多様化 あらゆる商品やサービスが市場にあふれ成熟した現代において、顧客のニーズは多様化しています。また、商品やサービスの基本的な機能や性能は当然の前提とされており、それだけで顧客を満足させるのは困難です。現在の顧客は、購入前の情報収集から購入後のサポートに至るまでの体験全体に高い期待を抱いています。顧客自身はそれを意識していなくとも、他の商品やサービスとの比較で無意識にハードルが上がっている状態です。したがって企業は、単なる製品やサービスの提供だけでなく、顧客にどのような体験を提供できるかがポイントになっています。SNSによる拡散(口コミ)効果 SNSが発達した現代では、顧客の体験や声が、良いことも悪いことも短時間で拡散され、企業のブランド価値に大きな影響を与える時代になっています。 特にCXは、SNSでの顧客の発信内容に直結するため、企業にとって重要な戦略的要素となります。長期的なファンの育成 良いCXは、顧客に特別な満足感を与え、ブランドの「ファン」を作ります。このファンは単なる顧客に留まらず、ブランドに強い愛着を持つことで、リピート購入を繰り返し、企業の売上や成長に大きく貢献します。株式会社Sprocketとマーケティング専門メディア「Agenda note(アジェンダノート)」が共同で実施したマーケター100名を対象としたアンケート調査によると、「今後取り組みたいテーマ」として最も多かったのは「ロイヤル顧客(ファン)育成」でした。 引用:【マーケター100人調査】サイト運営の課題は「ロイヤル顧客の育成」(Sprocket・Agenda note共同調査) こういった課題意識からも、短期的利益だけを目的としない、より長期的な関係性構築のためのCX向上がますます重視されていくでしょう。CXを向上させるための5ステップCXを向上させるための5ステップを解説します。顧客の声を聞く顧客を理解するカスタマージャーニーマップの作成施策の実行PDCAサイクルを回す以下にて詳しく解説します。①顧客の声を聞く アンケートやインタビューを実施し、顧客のニーズや不満を収集し課題を整理します。 例えば、コスメを提供する企業の場合、顧客の年齢や性別、職業、利用シーン、自身の肌の状態や悩み、商品を選んだ理由、商品への不満などの情報を集めます。②顧客を理解する 購買データ、アンケートやインタビューを踏まえてペルソナ(顧客像)を定義します。ペルソナを明確にすると、顧客のニーズが把握でき、最適なアプローチ方法や提供すべき商品・サービスが見えてきます。ペルソナについては「マーケティングにペルソナを活用する効果とは?よく聞く3大疑問にズバッと回答」で詳しく解説していますので合わせて参考にしてください。また、顧客理解については下記の記事も参考になります。>>顧客理解を深める分析手法5選|重要性と活用方法を徹底解説します③カスタマージャーニーマップの作成 カスタマージャーニーマップとは、時系列で商品やサービスとペルソナ(顧客)との接点を整理し、接点ごとの課題や提供すべきコンテンツを可視化した図表です。 ▼カスタマージャーニーマップの例 カスタマージャーニーマップの詳細は「カスタマージャーニーマップとは?陥りやすい3つの失敗と正しい作成手順をご紹介」を参照ください。④施策の実行 カスタマージャーニーマップを元に、顧客接点ごとの具体的な施策を実行にうつします。例えば、無関心層への接点として、「オウンドメディア」を立ち上げてお役立ち記事を提供するリピート層との接点として、顧客が集まる「コミュニティ」を立ち上げ運用するといったように、各接点ごとの顧客の感情やニーズに適した施策を行うことで、効果が上がりやすくなります。⑤PDCAサイクルを回す 実行した施策を評価し、さらに改善を行うPDCAサイクルを回します。CXを向上させる8つのポイント CX向上を目指すために担当者が意識すべき8つのポイントを紹介します。パーソナライゼーション(Personalization)を取り入れるオムニチャネル(Omni-channel)を意識するエンゲージメント(Engagement)を高めるフィードバック(Feedback)を行うカスタマージャーニー(Customer Journey)を把握するデータ分析(Data Analytics)を重視する迅速に対応(Responsiveness)するエンパシー(Empathy)を心がける①パーソナライゼーション(Personalization)を取り入れる 顧客一人ひとりのニーズや状況にあわせたサービスを提供する。 パーソナライゼーションを効果的に行うツールとして「診断コンテンツ」があげられます。診断クラウド「ヨミトル」を活用すれば、顧客一人ひとりにあわせたコミュニケーションが実現します。具体的な事例は後述を参照ください。②オムニチャネル(Omni-channel)を意識する Webサイトやアプリ、実店舗など顧客が接触する複数のチャネルでサービスを提供する。 ポイントは次の通りです。 オンラインオフラインの境界のないシームレスな体験を提供 すべての接点で一貫したブランド体験を提供 チャネル間での情報連携を徹底 ▼複数のチャネルでサービスを提供した事例 診断コンテンツでECへの誘導が約3倍に、 リアル店舗でも活用し接客を効率化③エンゲージメント(Engagement)を高める SNSやメルマガなどのチャネルを利用して情報を配信し、顧客との継続的な接点を築く。ポイントは次の通りです。・顧客との継続的なコミュニケーション・ブランドとの感情的なつながりの構築・顧客参加型のコンテンツやイベントの提供診断コンテンツは、顧客参加型のコンテンツ施策としても有効です。「自己理解を深める」という知的価値に訴えかけるため、顧客の主体的な参加を促進します。▼関連資料性格診断のビジネス活用事例 BtoC企業成功事例”7選”④フィードバック(Feedback)を行う 顧客からのフィードバックを常時受け付け、データ分析を行い改善をしていく。たとえば、定期的なアンケートやインタビューを実施し、顧客の声をもとにサービス改善を継続的に実施することなどが挙げられます。ポイントは次の通りです。・顧客の声を積極的に収集・NPS(顧客ロイヤリティを数値化したもの)を測って満足度を測定・収集した意見を分析し迅速な改善を実施⑤カスタマージャーニー(Customer Journey)を把握する カスタマージャーニーマップを作成し、ブランドの認知から、購買、リピートまで一連のプロセスを把握する。作成したカスタマージャーニーマップは定期的に見直しましょう。ポイントは次の通りです。・顧客接点の洗い出しと評価・課題やボトルネックの特定・体験価値の向上ポイントの明確化⑥データ分析(Data Analytics)を重視する 購買データやWebサイトのアクセスデータなどを分析し改善を行う。たとえば、Web接客ツールなどを活用し、顧客の行動データを収集・分析して改善策を導く施策が挙げられます。ポイントは次の通りです。・定量・定性データを複合的に分析・顧客インサイト(顧客の真意)の抽出・データにもとづいた意思決定⑦迅速に対応(Responsiveness)する 顧客からの問い合わせに迅速に対応する。たとえば、現場のスタッフに決裁権を与え、顧客ニーズに応じて即座に対応できる体制を整備する施策が挙げられます。ポイントは次の通りです。・顧客からの問い合わせへの素早い対応・問題解決をスピーディーにできる導線の構築・現場での臨機応変な対応力を磨く⑧ エンパシー(Empathy)を心がける 顧客の視点にたって考え、改善を実行する。たとえば、顧客の感性や感情に寄り添い、顧客が忘れられない体験を提供することなどが挙げられます。ポイントは次の通りです。・顧客の立場に立った対応・感情的価値の提供・きめ細やかなホスピタリティの実践接客での対応はもちろんですが、マーケティングにおいてもこれらは実践可能です。たとえば、顧客の悩みをヒアリングした上で最適な商品を提案する診断コンテンツを導入すれば、「押し売りではなく、自分の悩みに寄り添った提案をしてくれている」という印象を与えることができます。Webマーケティングであっても、「信頼のおける専門家に相談しているような感覚」を演出できるため、情緒的価値の面で他社との差別化がしやすくなります。▼関連記事売上が上がる「商品レコメンド診断」業界別の活用事例を紹介CXの効果をはかる5つの指標 PDCAを回すには、実行した施策の評価が必要です。ここでは、CXの効果を評価する指標を紹介します。顧客満足度(CS) CS(Customer Satisfaction:顧客満足度)とは、顧客が商品やサービスを利用した際にどれだけ満足したかを測るための指標です。顧客満足度は、顧客が期待していた内容と実際に得られた体験のギャップによって決定され、企業の評価や改善の指針として活用されます。よくある例では、企業側が設問を設定し、5段階評価で「満足」「やや満足」「普通」「やや不満」「不満」などの項目を顧客に回答してもらい評価を行います。ネットプロモータースコア (NPS) NPS(Net Promoter Score)とは、顧客が商品やサービスを他者にどれだけ推薦したいと思うかを測る指標です。 他者に推薦したい割合が多いほど、CXが高いと評価できます。 よくある例では「このサービスを友人に紹介したいと思いますか?(10段階で回答してください)」などの設問になります。顧客エフォートスコア(CES) CES(Customer Effort Score:顧客エフォートスコア)は、顧客が商品やサービスを購入する際や、問題解決のために費やした労力を測定する指標です。 このスコアは、顧客体験(CX)の重要な側面である「手間の少なさ」や「プロセスのスムーズさ」を評価するために使用されます。顧客が手間取るほど不満が高まり、CXの質が低下します。 よくある例では「◯◯はスムーズに購入できましたか?(10段階で回答してください)」などの設問になります。顧客生涯価値(LTV) LTV(Lifetime Value:顧客生涯価値)とは、一人の顧客が特定の商品やサービスを通じて、生涯にわたって企業にもたらす利益を指します。 顧客がリピート購入を繰り返し、長期的にブランドとの関係を維持するほどLTVは高くなります。 LTVは、顧客の価値を金額で示す指標であり、LTVが高いほどCXが良好でファン顧客が多いといえます。リテンションレート(CRR) CRR(Customer Retention Rate)は、特定の期間内において、既存の顧客が商品やサービスを再利用または継続利用した割合を示す指標で、顧客の維持率を表します。 CRRが高ければ継続的な利用をしていることを示しており、CXが高いと評価できます。One to Oneマーケティングを活用したCXの向上(事例付) CX向上の有効な手段として「One to Oneマーケティング」があげられます。 これは、顧客一人ひとりの嗜好やニーズに合わせて、パーソナライズされた商品やサービス、体験を提供するマーケティング手法です。 このアプローチは、顧客ごとの異なる期待や価値観に対応することで、CXを向上させる強力な手段となります。顧客データを活用する 顧客の購買履歴、閲覧履歴、行動データ、アンケート結果などを活用し、個々の顧客のニーズを把握します。これにより、より的確な提案やサポートが可能になります。 例:ワインを購入した顧客に、おつまみとしてチーズを提案する。パーソナライズされたコミュニケーションを行う 一律の接客ではなく、顧客の要望をヒアリングしながら顧客にあった最適な商品を提案します。 例:診断コンテンツのような、顧客が質問に回答をしていくことで顧客に最適な商品を提案する仕組みを導入する。事例①:ECとリアル店舗でCXを向上させた「よーじやグループ」 よーじやグループでは、ECサイトとリアル店舗の両方で「診断コンテンツ」を用いて顧客一人ひとりに寄り添った接客を行い、CXの向上に成功しました。この事例では「診断コンテンツ」を活用することで、顧客一人ひとりの肌の悩みに寄り添ったパーソナライズされたコミュニケーションを実現しています。詳しい事例はこちらの「診断コンテンツでECへの誘導が約3倍に、 リアル店舗でも活用し接客を効率化」 を参照ください。事例②:LINE友達登録率を向上させた「株式会社フィッツコーポレーション」 株式会社フィッツコーポレーションでは「診断コンテンツ」を用いて、一人ひとりの感情にあわせたコミュニケーションを行い、LINE友達登録率を10%以上に向上させました。この事例では「診断コンテンツ」を活用することで、いまの気分にぴったりの香水をおすすめするサービスを提供しました。感情的価値に寄り添うことで顧客のモチベーションを高め、コンバージョンを増やすことに成功しています。詳しい事例はこちら「小売店アプリ会員向けに配信した広告流入より、LINE友達登録率10%以上を達成」 を参照ください。まとめ CXの向上には、多様化する顧客のニーズに寄り添うことが不可欠です。一人ひとりの顧客に対し、適切な提案や対応を行うことで、ブランドへの信頼感と満足度を高めることができます。特に、「診断コンテンツ」の活用は、サービスのパーソナライズ化や感情的価値の向上を実現する有効な手段です。顧客が自身の状況やニーズに応じた商品やサービスを簡単に見つけられる仕組みは、特別な体験を提供し、CX向上に大きく寄与します。「診断コンテンツ」を効果的に活用することで、オンラインとオフライン双方での顧客体験を最適化し、競争優位性を高められます。診断コンテンツに興味がある方は、クラウド型診断コンテンツでシェアNO.1、CX向上の成功事例も豊富な診断クラウド「ヨミトル」をご活用ください。