マトリックス、サマーウォーズ、攻殻機動隊。これらの作品に共通するのは……私の好きなSF作品……ではなく「仮想空間」を扱っていることです。これまでフィクションであった「仮想空間に入り込むSF映画」が現実になろうとしています。「メタバース」です。2021年にFacebook社が社名をMeta社に変更し、さらに注目が集まっています。VR(Virtual Reality)というと、遊び・ゲームの要素を強く感じるかもしれません。しかし、メタバースは、私たちの日頃の生活を、そしてビジネスも一変させるのでは、と期待されています。ビジネスが変われば、マーケティングにも変化が生まれることは、想像に難くありません。「仮想空間」という新しいプラットフォームが生まれゆく今、マーケターはどんなスタンスをとるべきでしょうか。早速参入するべきか、それとも今は静観するべきか。皆様はどのようにお考えでしょうか。今回は、メタバースについて詳しく知りながら、マーケターのスタンスについて考えてみましょう。まるでSFの世界「メタバース」とは? VRゴーグルをつけてアクセスでき、他人と交流できる仮想空間「メタバース」。これを詳しく理解するには、まず映像を見ていただくのがよいでしょう。 Facebook社がMeta社に社名を変更した翌日に公開された、メタバースを紹介する動画をご覧ください。(YouTubeの設定から、日本語字幕を設定できます)%3Ciframe%20width%3D%22560%22%20height%3D%22315%22%20src%3D%22https%3A%2F%2Fwww.youtube.com%2Fembed%2FUvufun6xer8%3Fsi%3D6AQUzNXUtBxBAkEX%22%20title%3D%22YouTube%20video%20player%22%20frameborder%3D%220%22%20allow%3D%22accelerometer%3B%20autoplay%3B%20clipboard-write%3B%20encrypted-media%3B%20gyroscope%3B%20picture-in-picture%3B%20web-share%22%20referrerpolicy%3D%22strict-origin-when-cross-origin%22%20allowfullscreen%3D%22%22%3E%3C%2Fiframe%3E 上記の動画のように、ゲームをしたり、他人と交流できたりする仮想空間が「メタバース」です。まさにSFの世界です。しかし、「バーチャルオフィス」や「バーチャルマーケット」は、すでに実現されていますから、未来ではなく現在の話です。ちなみに、メタバースとは「仮想空間」を指す名詞であり、Meta社の商標ではありません。Meta社以外も独自のメタバース(=仮想空間)を開発しています。実は「仮想空間」という考えそのものは、もっと前からありました。たとえば、Minecraft(マインクラフト)やFortnite(フォートナイト)などのゲームも広義の仮想空間といえるでしょう。メタバースがこれまでの仮想空間と一線を画すのは、VRゴーグルの存在です。これのおかげで、仮想空間に、本当に存在しているかのように振る舞えます。両手にリモコンをつければ、仮想空間上にある物体を「手に取るように」持ち上げたりできるので、本当に仮想空間のなかに飛び込めてしまうわけです。メタバースのメリット1 土地の制約がない 「仮想空間にいけるだけで、何が便利になるんだ?」と思う方もいらっしゃるでしょう。メリットは様々ありますが、分かりやすいのは空間的な制約がなくなることです。仮想空間なら、土地を気にせず巨大な建造物を作れます。BtoC事業者向けの事例を1つご紹介しましょう。2021年12月に、バーチャル空間で行われるマーケットフェスティバル「VirtualMarket2021」が開催されました。このイベントには様々な企業が参入しており、新しいビジネスの片鱗が見られます。たとえば、株式会社大丸松坂屋百貨店による「バーチャル大丸・松坂屋」では、3Dモデル化された食品を手に取って見られたり、カタログで詳細を選んだり、商品を購入したりすることが可能です。2DだったECサイトが、仮想空間でバーチャル百貨店になりました。株式会社ビームスのバーチャル店舗では、3Dモデル(=アバターの衣装)を販売しました。ショップ店員もVRゴーグルをつけて、仮想空間でリアルタイムで接客し、顧客満足向上に繋げています。土地、空間の制約がなくなると、ビジネスもやりやすくなります。仮想空間には土地の制限がないので、店舗の大きさは自由です。固定資産税もかかりません。展示会場も好きなだけビッグに作れます。(おそらく、データ容量的な制限は設けられると思いますが)将来的には、BaseやShopifyのように「すぐに使えるテンプレート店舗」のようなプラットフォームが用意され、中小企業も簡単にメタバースを活用できるようになるかもしれません。メタバースのメリット2 距離の制約がない もう1つ、動画をご覧ください。 Meta社がリリースしたバーチャルオフィス「Horizon Workrooms」を紹介する動画です。(YouTubeの設定から、日本語字幕を設定できます)%3Ciframe%20width%3D%22560%22%20height%3D%22315%22%20src%3D%22https%3A%2F%2Fwww.youtube.com%2Fembed%2Flgj50IxRrKQ%3Fsi%3DtBh7ltTAuYMez8fr%22%20title%3D%22YouTube%20video%20player%22%20frameborder%3D%220%22%20allow%3D%22accelerometer%3B%20autoplay%3B%20clipboard-write%3B%20encrypted-media%3B%20gyroscope%3B%20picture-in-picture%3B%20web-share%22%20referrerpolicy%3D%22strict-origin-when-cross-origin%22%20allowfullscreen%3D%22%22%3E%3C%2Fiframe%3E まだベータテスト版ですが、既にここまで実現されています。今後は通勤するという概念がなくなり、VRゴーグルをつけて、バーチャルオフィスに出社すればOKになるかもしれません。従業員数1,000人の会社であっても「オフィスはバーチャルだけ」なんてことも考えられますね。動画のように会って話せる実体感があれば、商談にも活用できます。ビデオ通話では分からなかった温度感が、メタバースなら分かるかもしれません。先のVirtualMarket2021では、オフィスにいる社員がVRゴーグルをつけ、メタバース上で接客するお店もありました。「それはオフラインと同じじゃないか」と思うかもしれませんが……面白いのは、メタバース上に1店舗しかなくとも、全国のお客様にオフラインのような接客ができることです。北海道から沖縄まで、お客様がどこにお住まいだろうが関係ありません。なんなら、スタッフもどこに住んでいたっていいわけです。メタバースの料金がどうなるかは未知数ですが、大幅なコストカットができるかもしれません。「距離関係なくアクセスできる場所」がメタバースであり、それが限りなくオフラインのような環境になれば、さまざまなビジネスに変化がもたらされます。メタバースのメリット3 多様性の時代に合っている ここからは筆者の予測を多分に含む話です。メタバースでは、障がいの定義が変わるかもしれません。例えば、車椅子で移動する方、半身がうまく動かせない方、寝たきりの方、社会的な場所に出るのが苦手な方。現実では障がい者と見なされた方も、パソコンさえ動かせれば、メタバース上では障がい者でなくなる可能性があります。(これはメタバースに限ったことでもありません。zoomなどのオンライン会議によって私たちは在宅で勤務できるようになりましたが、車椅子で移動する方も同様にメリットを感じていると思います)より多様性のある世界になります。アバターは好きに着せ替えられます。肌の色も関係ありません。肉体の制限もありません。ひょっとしたら性別も。これまでの常識にとらわれない個性をもち、みんながそれを平然と受け入れる。価値観が異なることが当たり前になった世界で、アイデアを持ち寄り、より創造的な世界が生まれるかも……しれませんね。やっぱり問題点も多々ある メタバースの可能性を図るために、問題点もまとめました。まず、VRゴーグルが高価です。Meta社がつくるVRゴーグル「OCULUS QUEST 2」は定価37,180円。安くありません。(2022年11月11日 追記)OCULUS QUEST2はMeta Quest 2に名称を変更し、定価も59,400円になりました。次に、VRが疲れること。筆者は重さ約600gの「PlayStation VR」を持っていますが、1時間もつければ、どうしても首が疲れてきます。Meta Quest 2は重量503g。軽量化されていますが、頭に500mlのペットボトルをくくりつけるので、違和感はあります。「VRゴーグルは目が辛い」という人もいますし、乗り物酔いのように、VRに酔っ払ってしまうこともあります。(現実は部屋の中にいて数メートルも歩けないのに、仮想空間ではいくらでも歩けるため、感覚が狂ったりします)逆に、没入しすぎて、メタバース依存症が生まれるのでは、と心配する声もあります。倫理的な問題もあります。ノートンライフロックのテクノロジー部門責任者、Darren Shou氏は、オンラインメディアWIREDに、以下のように寄せました。「もし、私の娘が(綺麗に整備された仮想空間で)ホームレス問題を目にすることがなければ、ホームレス問題について質問したり、ホームレス問題を経験している人々に共感したりすることはできないでしょう」「邪悪な者が、過激あるいは有害なコンテンツを、メタバースに投稿することも想像に難くありません」「メタバースの性質上、このような攻撃を受ける人は、受動的に体験するのではなく、体験を『生きる』ことになるかもしれません」メタバースがリアルになるほど、そこでの出来事は、体験に近くなっていきます。そこでもし、現実にも影響する精神的あるいは金銭的なダメージを与える事件があったとき、果たしてそれは「メタバースの利用規約」が裁くのか、それとも法律が裁くべきか。まだ答えは出ていません。今までにない新しい技術だからこそ、人間側が追いついていません。このような問題もあり「普及しないだろう」という意見もあります。案外、その通りかもしれません。しかし、世界中の大企業が、膨大なカネとエンジニアを投入している事実は、そこに将来性がある(とみんなが思っている)ことの証明でもあります。Meta社は約100億ドルをメタバースに投資すると発表しました。ソフトバンクグループは韓国のメタバース関連企業に1億5000万ドルを投資します。ナイキはバーチャルグッズを販売する企業を買収し、ラルフローレンも3Dアバターソーシャルサービス「ゼペット(Zepeto)」に参入しています。ビル・ゲイツ氏は個人ブログで「今後2、3年のうちに、ほとんどのバーチャルミーティングは、3D空間である「メタバース」へと移行すると私は予想しています」と語ります。メタバースとマーケターの付き合い 2022年の今、マーケターは、メタバースと、どう付き合っていけば良いでしょうか。すぐに始めるべきか、あるいは待つべきか。整理しながら考えてみましょう。分かりやすいポイントは、VR文化の普及率です。消費者がVRを使わなければ、メタバースマーケティングはできません。2021年にLINE株式会社が行ったアンケートでは、VRを使っているのは、全体の5%と出ています。(日本全国の18~59歳男女、2108人に調査 出典:LINEリサーチ https://research-platform.line.me/archives/38203466.html)となれば、「今はまだ、マーケターとしてカネとヒトを投入するには、少し早い」と判断するのが妥当かもしれません。アバターファッションなどはメタバースビジネスとして成功していますが、じゃあ何でもかんでもメタバースでいける状況かというと、経験値への投資的な意味合いが多少は出てきます。しかし、メタバース自体は、技術的にはもう実現しています。あとは普及だけです。VRゴーグルは数万円しますが、スマホをゴーグル代わりにするならそれほど高価でもありません。普及は、想像以上に早いかもしれません。こっちは高価ですが、メガネ型ヘッドセットも登場しています。エプソンのMOVERIO BT-40Sはメガネ型(普段使いはできないくらいゴツいけど)で透明なレンズながら、スマホやパソコンと接続するとディスプレイとして使えます。普及・一般化に備えて、VRないしARマーケティングにアンテナを張っておく、くらいが今のちょうど良い温度感ではないかと思います。この記事も少し経てば古い情報になるくらい、VRやメタバースは進化の激しい分野です。最新情報は各種ニュースサイトでも更新されていますので、ぜひ探してみてください。メタバースは大手のもの? Metaだのソフトバンクだの、大手企業の話ばかりしていました。メタバースを使ったビジネスは大手だけのものなのでしょうか。そうでもありません。メタバースのプラットフォームごと作るとなればお金はかかりますが、既存のプラットフォーム上でイベントをやるなら莫大な資金がなくても可能になってきました。メタバースのプラットフォームはすでにいくつか登場しています。有名どころではMeta Horizon worldsなどですね。メタバース上のSNS Clusterでは「小さなイベントは100万円から請けています※」とのことで、中小企業でも手を付けられる価格です。※2022年2月時点のインタビュー記事より中小企業でも参入できる、より身近なものになってきています。「バーチャル大丸・松坂屋」のようにECサイトで売っている商品をスマホでスキャン。モデル化してメタバース上で販売するくらいなら、超巨大プロジェクトにもなりません。今のうちにメタバース販売の経験を積んでおくのも良い投資でしょう。現在のところ、メタバースビジネスとして流行しているのはNFTを使ったものです。データに価値を持たせる技術ですね。これを活用できる業界なら、かなりの利益を生み出せるかもしれませんよ。NFTについてはこちらの記事で解説しています。>>5分でわかるNFTの概要と商売のミライ「どうしてツイートが3億円で落札されたのか」まとめ VRゴーグルをつけてアクセスでき、他人と交流できる仮想空間「メタバース」。生活を一変させる技術として、注目を集めています。仮想空間に店舗をつくったり、バーチャルオフィスに出社したりと、ビジネスにも大きな影響を与える可能性があります。地球上のどこにいる人でも、仮想空間で会えるメタバースは、これまで以上に、人との交流が重視されると言われています。それはまさしく、今のSNSに近しいところもあるでしょう。企業とユーザーとの信頼関係は、今後も重要になっていくかと思われます。今まで通り、SNSなどを使って、ユーザーと良好な人間関係を築いていくことが、メタバースでも役立つでしょう。ピクルスではSNSマーケティングの支援やキャンペーンツールなども提供しています。SNSに興味がある方、SNSをやりたいけど手が回らない方も、ぜひお気軽にご相談ください。おまけ 追記するにあたって、久々に映画「マトリックス」を見ました。見たかっただけでもあります。この映画は「マトリックス」というメタバース上で繰り広げられます。今見ると、1999年登場の映画とは思えません。印象的な場面を紹介しましょう。主人公ネオ(キアヌ・リーブス)は師匠的存在のモーフィアス(ローレンス・フィッシュバーン)とメタバース上で組み手をし、ボッコボコにされて息を荒げています。モーフィアスがこう問いました。「この世界で、私の強さや速さが、筋肉と関係があると思うか? その空気は、おまえが呼吸しているものか?」当時は最先端で難しい映画でしたが、今見ると3倍は楽しめる映画です。今日の晩酌にはぜひマトリックスを。