昨今、SalesforceやSmartHRを筆頭に、SaaSのサービスが急増しています。SaaSとは簡単に言うと、インターネット上で提供されるソフトウェアのことです。自社サーバー内のみで利用できるソフトと異なり、インターネットに繋がる環境下であればどこでも利用できるのが特徴です。コロナ禍におけるリモートワークの普及も相まって、今後もますますSaaS市場は拡大していくことが予想されます。しかし、ここ数年で急増したビジネスモデルということもあり、「SaaSサービスのマーケティングを担当しているものの、従来の買い切りモデルのマーケティングとの違いがあるのか分からない…」「SaaSマーケティングに関するノウハウがなく、今のやり方が正しいか判断できず悩んでいる…」など、SaaSマーケティングの特徴があまりわからず、手探りで実務を回している方も多いのではないでしょうか。本記事では、従来の買い切りモデルとも比較しながら、SaaSマーケティングにおけるポイントである「顧客との関係性をいかに高めるか」について解説します。▼関連記事【脱しつこい広告】コンテンツマーケの主流は診断コンテンツになるか?SaaSとは?ビジネスモデルの特徴をおさらい 改めてSaaSとは何かから、おさらいしていきましょう。SaaSとは「Software as a Service」の略で、インターネットさえあればどこでも利用できるソフトウェアのことを指します。身近な例を挙げると、Web会議ツールのZoomや、MAツールのPardotやMarketoなどですね。SaaSは、クラウドサーバーを用いることで、どこからでもソフトウェアにアクセスできることが特徴ですが、収益モデルにも特筆すべき点があります。自社サーバー型のソフトウェアでは、サービスを購入し、所有物として半永久的に利用できる買い切り型の収益モデルが主流でした。一方SaaSは所有という概念がなく、利用したい期間だけお金を支払うサブスクリプション型の収益モデルを採用しているケースが多いです。イメージがつきやすいようにMicrosoft Officeを例に挙げると、「Office Home & Business 2021」はサービス購入後に、自身のPCにMicrosoft Office のソフトウェアをダウンロードすることで、半永久的に利用できる買い切り型モデルです。一方で、企業のグループウェアとしてもよく利用されている「Microsoft 365」は、ライセンスの契約期間が1年間のサブスクリプション型サービスです。年間利用料は買い切り型モデルに比べると安価であり、継続して利用する場合はライセンスの更新が必要になります。本章のまとめとして「SaaSはクラウドサーバーを用いたサービスで、サブスクリプション型の収益モデルである」ことを覚えておきましょう。SaaSのビジネスモデル3つの特徴 ここからはSaaSのビジネスモデルにおける3つの特徴をご紹介します。 それぞれ見ていきましょう。1. 売って終わりではなく、継続してもらうことが重要 買い切り型のサービスは基本的に「受注」がゴールです。もちろん受注後にクロスセル・アップセルを狙っていくことはありますが、売上の大半を占めるのは初回契約時の費用となります。一方でSaaSの場合は前章でご紹介した通り、サブスクリプション型の料金形態であることが多いため、1社あたりの初回契約金額は少額です。だからといって、買い切り型よりも儲からないわけではありません。出来る限り長く継続してもらえれば、1社あたりの契約金額は買い切り型よりも多くなります。例えば、500万円の買い切りサービスを受注できれば、500万円分の売上が計上されます。では次に年間利用料80万円のSaaSサービスの場合、初年度に入るのは80万円です。しかし、このサービスを7年継続してもらえると合計金額は560万円となり、買い切りの金額を上回ることとなります。さらにその先10年15年と継続してもらえると、どんどん金額が積み上がっていきます。つまり継続してもらうことで価値が最大化していくため、「販売すること」ではなく「継続してもらうこと」がゴールになるのです。2. 常にアップデートし続けることができる サービスがローンチしたら開発が終わるわけではなく、クラウドの強みを活かして既存機能のブラッシュアップや新機能の追加など、アップデートし続けることができるという特徴があります。外部環境の変化が激しい昨今、顧客ニーズの変化も大きくなっています。SaaSはそんな顧客ニーズの変化にも細かく対応できるため、時勢に合ったサービスであり続けられるのです。またアップデートされることは、顧客がSaaSを導入するメリットでもあります。自社サーバーに新機能を構築しようとすると、場合によっては追加で開発が必要となり、そのたびに多額の費用がかかってしまいます。SaaSであれば、ランニングコストだけで時勢に応じた最新の機能を使うことができ、顧客にとって魅力的です。3. 売上予測が立てやすい 最後に、売上予測が立てやすいこともSaaSの特徴です。買い切りモデルでは、商品がいくつ売れるかどうかで売上が大きく左右されますが、SaaSの場合はどのプランを何社契約しているかで固定収入がある程度決まっているため、安定しやすいビジネスであると言えます。例えば買い切りモデルのサービスを扱っている会社で、今年度8,000万円の超大型受注があり、前年度の売上3億円から5億円まで伸ばすことができました。このとき来年度も同じくらい売上を伸ばせるかは予測が立てにくく、大型受注が取れなければ目標は未達になってしまうでしょう。一方SaaSの場合、利用社数が1,000社で1社あたり年間50万円の利用料だとすると、今年度は5億円の売上となります。そしてこの5億円は基本的に来年度のベースの売上とも言い換えられます。もちろん解約が出ることもありますが、1社あたりのインパクトは買い切りモデルよりも小さいため、よほどの大量解約が出ない限り売上が前年度よりも下がることはなく、売上予測が立てやすいです。SaaSマーケティングで重要なのは「顧客との関係性」 では、SaaSと買い切りモデルを比較した際、マーケティングにおける違いはあるのでしょうか。まず、両者のビジネスモデルの違いから、事業として追うKPIの指標と優先度が異なります。買い切りモデルの場合は「受注社数」や「受注金額」が主なKPIになりますが、SaaSの場合は「継続利用社数」や「一社あたりの平均利用金額」がKPIの指標として重要です。しかし、マーケティングの基本的な考え方や打つべき施策などは、SaaSであっても買い切りモデルであっても大きな違いはありません。その上で一つ特徴を挙げるとすると、SaaSマーケティングはより「顧客との関係性」が鍵になります。先で述べたように、SaaSは販売することだけがゴールではなく、できるだけ長く継続してもらう必要があるビジネスモデルです。そして継続してもらうために重要なのが「顧客との関係性」ですSaaS以外のサービスであっても、リピートやクロスセル、アップセルを狙う既存顧客向けマーケティングもあり、顧客との関係性はもちろん重要ですが、前述の通り企業としての主な収益源はあくまで新規顧客の獲得であるケースが多いでしょう。SaaSの場合は継続そのものが収益に直結するため、重要性がより高いと言えます。だからこそ「カスタマーサクセス」と呼ばれる顧客の成功をサポートする専門部隊が、SaaSの普及と共に広まってきているのです。そのような専門部隊を設けるほど、顧客との関係性が重要になるビジネスであるため、マーケティングにおいても顧客との関係性を重視しましょう。顧客との関係性を重視したマーケティングとは? SaaSマーケティングに欠かせない「顧客との関係性」を重視したマーケティングとは、具体的に何をどのようにすれば良いのでしょうか。ここでは、ポイントを3つお伝えします。1. サービスの期待値を上げすぎない SaaSに限った話ではありませんが、興味関心を惹くための誇大表現はNGです。プロモーションで用いるキャッチコピーなどが、実態とは異なる表現になっていないか確認しましょう。例えば「24時間365日、手厚くサポートします!」と広告で打ち出したものの、実際には平日のみのサポート対応だったとなると、そこに価値を感じたユーザーをガッカリさせてしまいます。このようにユーザーの期待にそぐわないサービスであった場合、たとえ購入まで至ったとしてもすぐに解約されてしまい、利益にならないどころかネガティブなイメージを持たれてしまいます。またSaaSのプロモーションで注意したいのが、未実装の開発予定機能を打ち出しすぎないことです。開発の予定が間に合わなかった場合、その機能を期待して導入したユーザーからクレームに繋がることもあります。今ある機能を分かりやすく、魅力的に伝えるようにしましょう。もし機能だけで競合他社と差別化するのが難しいときは、サービスで実現したいことやビジョンを打ち出し、共感を呼ぶことがおすすめです。2. 既存顧客との関係性を高める すでに契約している既存顧客との関係性を高めることは、カスタマーサクセスの役割だと考えている人が多いかもしれません。確かに、直接的な顧客とのやり取りはカスタマーサクセス部隊が中心になるかと思いますが、既存顧客のリピートを支援するリテンションマーケティングや、ユーザー同士のコミュニティを設計するコミュニティマーケティングなど、マーケティングでサポートできる領域はたくさんあります。また、新規顧客向けのマーケティング施策を、既存顧客に転用できることがあります。例えば、新規顧客獲得を目的にしたWebセミナーが、既存顧客にとっても有益なテーマなのであれば、一緒に集客することもできるはずです。「これは新規向けの施策だから」と明確な線引きをするのではなく、「既存顧客にも還元できないか」という視点を持つようにしましょう。3. LTV(顧客生涯単価)の指標を追う SaaSマーケティングにおける目的は、「受注してくれそうな見込み客」の獲得ではなく、「継続的に利用してくれるであろう見込み客」の獲得です。リード獲得数や商談化率、受注率だけを追っていては、最終的にどれくらい継続し自社に利益をもたらしたのか分かりません。そこで、継続利用を可視化する「LTV(顧客生涯単価)」の指標も追うことが重要です。LTVは、1社の顧客から生涯に渡って得られる利益を指す言葉であり、継続利用社数が増えるほど、数値は大きくなります。LTVの算出方法など、もっと詳しく知りたい方は、以下の記事もご参照ください。 >>LTV(顧客生涯価値)とは?既存顧客を逃さないために知っておきたい3つの要素その他SaaS独自の指標には、「ユニットエコノミクス」や「チャーンレート(解約率)」などがあります。自社サービスの指標を正しく把握しながら、適切な施策を打ち出していきましょう。まとめ SaaSマーケティングのポイントは掴めましたでしょうか。最後に、これまでの内容を簡単にまとめていきます。まずSaaSのビジネスモデルには、以下の3つの特徴があります。売って終わりではなく、継続してもらうことが重要常にアップデートし続ける必要がある売上予測が立てやすいマーケティングにおいては、従来の買い切りモデルとの大きな違いはないものの、SaaSマーケティングでは特に「継続してもらう」ために何ができるかを考えなければなりません。そのための一つとして「顧客との関係性」を高めることの重要性をお伝えしました。顧客との関係性を高める具体的なポイントは以下の3つです。サービスの期待値を上げすぎない既存顧客との関係性を高めるLTV(顧客生涯単価)の指標を追ういずれも買い切りモデルにおいても必要な要素ではありますが、顧客との継続的な関係が鍵となるSaaSにおいては、より重要です。ぜひ、自社のSaaSマーケティングの活動に活かしてください。▼関連記事【脱しつこい広告】コンテンツマーケの主流は診断コンテンツになるか?